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2.2 乗り物酔いのメカニズムの解明に関する基礎研究

 

2.2.1 基礎研究の実施方法
乗り物酔いのメカニズムの解明に対するアプローチの方法は、従来は2通りであった。即ち、
?医学的・生理学的見地からのアプローチ、および
?工学的見地からのアプローチである。
しかし、?においては純粋に医学の立場をとるため、乗り物という人間にとっての動的な環境に対する理解に欠ける面があり、また、乗り物を設計・運行(航)する場合に不可欠である量的指標を提案することはなされなかった。一方、?においては、乗り物の動的なメカニズムは理解するものの、動的な環境下における生体の生理的、心理的反応に対する理解に欠け、乗り物に搭乗した人間を1つの「システム」、即ち「ブラックボックス」と考え、入出力関係だけに着目したシステム工学的取り扱いしかできていない。従って、動環境下における人間の快適性を論ずること、酔いを発症する過程のメカニズムに関する考慮はなされなかったといえよう。(図2.2−1−1参照)
本研究は、これらの2つのアプローチと少し異なるアプローチ手法を採用する。即ち、工学的見地、工学的手法を基本としつつ、医学的、生理学的、心理学的アプローチを行う。この手法を遂行するためには、工学、医学、心理学等の多分野の研究者の有機的結合、協力関係を必要とする。
以下に、本研究のアプローチ手法に則した具体的方法について述べる。
1)精神的・身体的健康度の事前調査
外見上は健康人に見える場合でも、性格的要因、体質的要因、性別、年齢等の精神的、身体的な原因のために半健康人であったり、病理を内在していたり、また病人であったりする。これらの人を一律に健康人として扱うことは、研究の遂行上好ましくない。
このような不都合を避けるため、被験者としての協力を依頼する際に、アンケート調査、血液・尿検査、心電図測定、平衡機能検査を実施する必要がある。
2)動揺暴露実験
乗り物酔い、乗り心地を対象とした動揺暴露実験は、設備、計測機器などの面から、通常は船舶あるいはその他の乗り物の実機を用いて行われることが多い。実機の場合には実際の外的刺激が被験者に印加されるので都合の良い点はあるものの、周辺環境、動揺刺激、その他の刺激を含め多くの要因に関して、全ての被験者に同一、一定の再現性のある外的刺激を加えた暴露実験を行うことが困難である。また、本研究のアプローチでは、動揺暴露時の被験者の生理的、心理的動態を正しく把握する必要があるため、計測設備、装置機器が大がかりとなり、事実上実験は不可能である。
このために、一定の環境下で全ての被験者に再現性のある動揺刺激を加えることのでき、船体動揺模擬装置を用いた実験が必要となる。本研究に用いた動揺模擬装置は、大阪府立大学工学部海洋システム工学科所属のものである。
3)動物を用いた動揺暴露実験
医学分野における研究においては、人間を対象とした研究を行う際には、動物を被験体とした実験の実施を要求されることが多い。本研究は、工学的見地からの研究を基本としてはいるが、計測・解析・評価の内容は医学、生理学の分野で行われる部分が多い。研究成果の位置づけを確実なものとす

 

 

 

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